第30回研究例会

■ 日時:2023 年 3 月 18 日(土)13:00-17:00

■ 会場:オンライン

■ プログラム(発表時間 30 分 + 質疑応答 20 分 = 50 分)

13:00 開会

13:05-13:55 「漫画・絵本から歴史を問う-歴史総合の実践から-」

鈴木明日見(駒澤大学非常勤講師)

今年度から高等学校において始まった歴史総合は一年目を終えようとしている。現在学校現場では混乱しながらも、次の探究科目へ向けての接続がはかられている。また大学では、歴史総合を入試問題として作成することが、いよいよ現実味を帯びてきた。こうした状況を踏まえ、初年度の歴史総合を振り返り、生徒一人ひとりがどのように歴史的課題と向き合い、考察を導いたのかを総括したい。またその際、フィクションである漫画や絵本という資料を使用して読み解くことの意義と課題についても、実践例を踏まえて考えたい。


13:55-14:05 休憩(10 分)


14:05-14:55 「礼儀作法書における子どもの権利論の萌芽―モンヴェル『子どものための正しい作法』とその歴史的背景から考える」

井岡瑞日(大阪総合保育大学)

フランスの絵本の黎明期を代表する作家、モーリス・ブーテ・ド・モンヴェルの作品に『子どものための正しい作法』La civilité puérile et honnête(1887)がある。同作は、絵と文との融合という新しい表現スタイルによって幼い子どもに直に礼儀作法を説いただけではない。伝統的な礼儀作法書の体裁をとりつつ、そこで教えるべきとされたブルジョワ的な規範を子どもの無秩序な騒々しさの対極にあるものとして位置づけ、ユーモアと皮肉を込めて描出した作品であったとされる。同作は子どもに対して何を語り、それは当時の一般的な礼儀作法書といかなる点で共通し、相違していたのか。また、同作を出現させた歴史的背景とはいかなるものか。本発表では、この「礼儀作法絵本」がフランスにおける礼儀作法書と子どもの権利史においてどのような意味をもつのかについて検討する。

14:55-15:10 休憩(15 分)

15:10-15:50 近況報告(40 分)


15:50-16:40 「〈子どものための哲学〉とソクラテス的学校

--- ヴァルケミューレ、メーレファンゲン、オストルプガード ---」

太田 明 (玉川大学)

近年、日本の学校教育のなかに哲学対話を導入する動きが高まり、今次の学習指導要領の改訂では、その方向が明確になっている。たとえば『高等学校学習指導要領(平成 30 年告 示)』の「公民」「倫理」では「哲学に関わる対話的な手法」を取り入れた活動を取り入れた 学習の指導が強く打ち出された。また、中学校道徳科の検定教科書には具体的に「探求の対話(P4C)」の進め方を掲載しているものまである。

「哲学対話」と呼ばれる活動が日本で盛んになったのはこの 10 年ぐらいである。P4C(子どものための哲学、Philosophie for Children)は、その創始者であるマシュー・リップマン (Matthew Lipman, 1923-2010)の『探求の共同体』によって広く知られるようになった。ところが 2000 年前後にはすでに P4C や学校教育での哲学対話への批判も登場し、「過渡期」を迎えていたのである。そしてこの批判は、「教育の学習化」への批判(ガート・ビースタ)と関連させられてより明確になっている。

しかし、学校教育に哲学対話や子どものための哲学〉を導入するとは、どのような教育理念・教育思想に基づいて、何をどのようにすることなのだろうか。その一つの例が、私が研究してきたレオナルド・ネルゾンが設立したヴァルケミューレ田園教育舎である。

この発表では、ネルゾンの学校とその継承者たちが 1930 年代にデンマークに亡命して設立した後継学校 —「ソクラテス的学校」− での教育を例として、上述の問題を検討したい。なお、ネルゾンについては『ハルシオン』(第 9 号)、今日の学校教育における哲学対話への批判については『とまり木』(第 6 号)の私の文章を参照していただきたい。


16:40-17:00 諸連絡

17:00 閉会

世界子ども学研究会

世界子ども学研究会は、「世界各地の社会・歴史・文化の中の、子どもと青年」を研究対象とした研究会として、2009年にスタートしました。歴史学・教育学・保育学・発達社会学・(児童)文学・音楽学などの諸分野間での、グローバルな学術交流を行なっています。本研究会にご関心のある方は、以下のアドレスまでメールでご連絡ください。 office-children(アットマーク)freeml.com