第19回研究例会

■日時 2017 年 9 月 1 日 (金曜日) 11:00–17:30 

■場所 青山学院大学総合研究ビル(正門を入ってすぐ右の建物)9 階第 15 会議室


発表プログラム

11:00 〈開会〉 

11:05–11:45 

「ベラルーシ共和国の人口動態の特徴 — ロシアとの比較を念頭に —

村知稔三 (青山学院女子短期大学)

■ オックスフォード大学の公衆衛生学と予防医学の研究者による共著 ∗ は、その第 2 章で「ソ連崩壊後の〔ロ シア連邦の〕死亡率急上昇」について分析している。その内容の多くは本研究会の例会でのこれまでの報告と重 なるが、ロシアとの対比でベラルーシ共和国を取り上げ、市場経済へ漸進的に移行した後者では「国民の健康改 善が見られた」と述べている点は興味深い。これをヒントに、対象をロシアに限ってきた報告者が、同国と歴史 的・政治的に関係の深いベラルーシについて今回は考えてみたい。具体的な課題として、1人口動態、特に子ど もに関する傾向、2乳幼児と保育をめぐる現状の特徴、3子どもの権利の実態とその擁護の動き、などが考えら れるが、報告時間の関係で今回は1に限定したい。 

∗D. スタックラー、S. バス (橘明美・臼井美子訳)『経済政策で人は死ぬか?——公衆衛生学から見た不況対策』 1 (草思社、2014 年)。原題は The Body Economic: Why Austerity (緊縮経済) Kills, 2013. 


11:45–12:25 

日本アニメーションにみる子育て支援 –「おおかみこどもの雨と雪」を中心に – 

神戸洋子(池坊短期大学) 

■ 『おおかみこどもの雨と雪』(細田守監督作品、スタジオ地図、2012)はシングルマザー花が、二人の子ども (人と獣性を持つ) を育て、子離れするまでを描いた作品である。背景にある子育て支援の状況を他のアニメー ションにも言及しつつ見て行く。児童福祉は第 2 次大戦後『火垂るの墓』で描かれた戦争孤児を保護・救済する ことから始まった。『パンダコパンダ』、『となりのトトロ』では上の子が母役を担う。母が主たる養育者で家庭 での子育てが当然と考えられつつ、母性の喪失も心配され始めた。1951 年の児童福祉法改正で「保育に欠ける 子どもを保育所に措置入所させる」という文言が入った時代を経て、親が働いている、いないにかかわらず利用 可能な施設で、地域の子育て支援にも力を入れるとして認定こども園、保育所が考えられ始めた。子ども子育て 支援新制度が発足した 2012 年が『おおかみこどもの雨と雪』配給の年である。訪問指導も行われるが、それが 若い母親に届かない現実もある。 


12:25–13:45 〈昼食休憩〉 


13:45–13:50 シンポジウム:アメリカ、カナダ、フランス、イギリスの孤児物語 

 シンポジウム趣旨説明 :伊藤敬佑(白百合女子大学非常勤講師)・金子真奈美(中央大学非常勤講師) 

■ 児童文学には、孤児の物語が不思議なほどに数多く存在する。「孤児」をテーマに掲げるシンポジウムとし ては第一回目となる本シンポジウムでは、アメリカ、カナダ、フランス、イギリスの孤児物語を取り上げ、フィ クションに頻出する孤児が何を語り、何を体現している、また、し得るのかをあぶり出すことを目指す。 


13:50–14:10 

L. M. Montgomery 作品における孤児 Anne の語らない語り

石井英津子 (東京女子医科大学非常勤講師、 白百合女子大学言語・文学研究センター客員所員)

■ L. M. Montgomery (1879-1942) は多くの作品で孤児を登場させている。今回は、作者の生い立ちや時代 背景を踏まえつつ、『赤毛のアン』(Anne of Green Gables, 1908) とその続編『アンの青春』(Anne of Avonlea, 1909) に焦点をあてて考察する。 Montgomery 自身、幼くして母を亡くし、祖父母のもとで育てられており、孤児に近い境遇であった。『赤毛 のアン』では、労働力としての孤児の男児を欲していた老兄妹のもとに、手違いで女の子の孤児 Anne がやって くるところから物語が始まる。子どもや女性の立場が未だ弱い時代にあって、Anne は新しい女性像を体現して いる。『アンの青春』では、Anne と Marilla が双子の孤児を引き取っており、子どもにとって環境がいかに大 切かを伝えている。Montgomery の描写においては、孤児の辛い境遇について、すべてを語らないことにより、 より多くを語っている。 


14:10–14:30 

孤児が問い直す家族のあり方 - 現代フランス児童文学における孤児の機能 - 

伊藤敬佑(白百合女子大学非常勤講師)

■ 本発表ではまず、現代フランス児童文学における孤児の機能を、伝統的な孤児物語の構造と対照しつつ、 ジャック・ファンスタン『ママが死んだ』(1990) と、Marie-Aude Murail の Oh, boy! (2000) の分析を通じて論じる。 伝統的な孤児物語の代表である『家なき子』(1878)、『家なき娘』(1893) の孤児とは、端的には、親の庇護を 失うことで逆説的に自由と活力を得て、最後に家族と再会、あるいは新たな家族を見つける存在である。この構 造は、『ぞうのババール』(1931)、『ポルフィの長い旅』(1955)、『アルプスの村の犬と少年』(1965) など、20 世 紀中程までの孤児物語でも同様である。 対して、本発表で扱う 2 作品は、いずれも親の死により孤児となった主人公たちの、保護者探しが物語の主題 である。孤児たちはどういった人物を保護者として望み、社会的通念は誰を保護者として適格と判断するか。そ の相違と決着が焦点となり、物語は「家族とは何か」という問いを投げかける。現代の孤児は、すなわち、家族 を問い直す機能を担っていると言えよう。 その上で、これらの物語が、どのような保護者像を望み、どのような家族のあり方を提示するのか、論じていきたい。


 14:30–14:50 

19 世紀末から 20 世紀初頭のアメリカ児童文学作品における孤児のイメージ

加藤麻衣子(青山学院大学非常勤講師)

■ バーネット ∗「秘密の花園」「小公女」ウェブスター「あしながおじさん」「続あしながおじさん」ポーター 「少女ポリアンナ」をとりあげ、19 世紀末から 20 世紀初頭のアメリカ児童文学作品における孤児のイメージを 比較する。初めは手の焼ける「モンスター・チャイルド」だったが物語が進行するにつれて「よい子」に成長し ていく「秘密の花園」のメアリーを除けば、主人公たちは終始一貫して健気、聡明、周囲の人たちに対する思い やりの深さを備え、同時に自由、独立の精神を兼ね備えている。しかしそれぞれの作品の背後にあるのは、「子 どもは天使である」とするヴィクトリア朝的な道徳観に基づく、当時の社会や大人たちの厳格で抑圧的な子ども 観である。本発表では上記の作品群の主人公たちのもつ「自由な精神」の様々な形を紹介すると同時に、背景に あるヴィクトリア的な価値観とのせめぎあいについて論じていく。 

∗ バーネット作品はイギリスが舞台であるが、「アメリカ的」作品としてここでは捉える。 


14:50–15:10

アメリカ南部文学における「孤児」(仮題)  

川谷弘子(中央大学非常勤講師)

■ 19 世紀、20 世紀のアメリカ南部文学において、人種の問題は逃れることのできない主題の一つである。奴 隷制度は黒人種に過酷な人生を強い、白人種に出自の証明を要求する。ケイト・ショパンの「デズィレの赤ちゃ ん」(1892)、ウィリアム・フォークナーの『八月の光』(1932)はアメリカ南部における「孤児」の悲運を描いた 作品と言える。孤児のデズィレは養父母に愛されるも、結婚後、黒人であるとの疑いをかけられ、赤子共々帰らぬ人となる。『八月の光』のジョー・クリスマスは常に、黒人か否かという立証不可能な問いに苦しめられ、最後 には殺人の罪をきせられて処刑される。しかし一方で、自ら父親のもとを離れて「孤児」の道を選ぶハックがい ることを忘れてはならない。アーネスト・ヘミングウェイはアメリカ文学の原点はマーク・トゥエインの『ハッ 3 クルベリー・フィンの冒険』(1885)にあると述べている。本発表では、ハックの「孤児」としての独立宣言の 意義を探求したい。 


15:10–15:30 

英国ファンタジーにおける「孤児」の必然性と可能性(仮)  

金子真奈美(中央大学非常勤講師)

■ 英国のファンタジー文学は、孤児を描いた小説が数多く誕生した 19 世紀に成立した。そのような文学的背 景を反映するかのように、最初期の作品 Water Babies (1863, Charles Kingsley) は孤児を主人公に据えてい る。それ以降も、ファンタジー文学は不自然なほどに孤児を頻出させてきた。知名度の高い作品にも孤児を描い たものが多く、その最たる例は世界を席巻した Harry Potter Books (1997-2007, J.K. Rowling) である。こ れらのことを踏まえ、本発表ではまず、なぜ「孤児」というモチーフがファンタジー文学においてくり返し用い られるのかを考察し、孤児が頻出することの必然性を明らかにすることを目指す。さらに、孤児物語はファンタ ジーという文学様式を用いることによって何を描出しているかを探ることにより、当該モチーフの表現の可能性 に迫り、ファンタジーにおける「孤児」が子ども読者に何を発信し得るかをあぶり出したい。 


15:30–15:45 〈休憩〉 

15:45–16:00 〈自己紹介〉 


16:00–16:20 総合コメント:森本真美(神戸女子大学)・並河葉子(神戸市外国語大学)・稲井智義(北海道教育大学) 

16:20–17:20 全体討論 

17:20–17:30 〈諸連絡〉

18:00            〈閉会〉

世界子ども学研究会

世界子ども学研究会は、「世界各地の社会・歴史・文化の中の、子どもと青年」を研究対象とした研究会として、2009年にスタートしました。歴史学・教育学・保育学・発達社会学・(児童)文学・音楽学などの諸分野間での、グローバルな学術交流を行なっています。本研究会にご関心のある方は、以下のアドレスまでメールでご連絡ください。 office-children(アットマーク)freeml.com