第18回研究例会

■日時 2017 年 3 月 30 日 (火曜日) 13:00–17:00 

■場所 青山学院大学総合研究ビル(正門を入ってすぐ右の建物)9 階第 15 会議室


■発表プログラム

13:00 〈開会〉 13:05–13:45 家庭教育と子育て文化の国際比較研究 その1 — フランスと日本の育児書に見る諸問題に注目して — 

吉岡公珠 (青山学院大学) 

■ 日本における長期居住の外国人家族や国際結婚は年々増え続け、教育の国際化にますます関心が高まっている。筆者自身もフランス人と結婚し一児をもうけ、インターナショナルスクールの経営を通し改めてそのあり方を問う。 1 日本にとってフランスは常に気になる存在であり、フランスの文化や芸術、暮らし方に関する本は常に書店の売上げ上位にランクされている。日本とフランスとの関係は近年に始まったことではなく、明治期より様々な分野において日本は影響を受けてきた。文明開化から約 150 年、我々はフランスを十分に理解しているつもりになっているが、果たして本当にそうか。 少子化と国際化が進む現代日本が、すでに少子化対策に成功し多民族国家として先を行くフランスからまだ 何か学べることがあるはずであると筆者は考える。そこで、教育の出発点である育児に着目し、育児書を頼り に日仏の育児文化比較を行い、『自律』をキーワードにこれからの育児のあり方を問う。なお、今回はその1 として、乳幼児をとりまく物理的環境の観点から研究を行う。 


13:45–14:25 戦争の記憶の継承とアイデンティティの問い − フランス児童文学におけるアルジェリア戦争 −

伊藤敬佑(白百合女子大学非常勤講師) 

■ 発表者は以前、フランスにおけるイスラム系の移民の子どもの抱える困難が、児童文学の中でどのように 描かれているのかを論じた。しかし、彼らの現状をより良く知るためには、その根と言える、フランスと旧植 民地との関係の変遷を知り、それが彼らのアイデンティティと状況にどのような影響を与えているのかを考え なくてはいけない。そして、この問題を考える上で最も重要な歴史上の出来事は、アルジェリア戦争であろう。 そこで本発表では、アルジェリア戦争自体とそれを描いた児童文学作品について概観した上で、現代を舞台 に、アルジェリア戦争の体験者から血縁者等の子どもたちへ、その体験が語り伝えられる作品を対象に、その 記憶の継承の仕方を中心に分析を行う。大人たちは、どういった立場から何をどのように語るのか。フィク ションの中の子ども達は、それをどう受け取り、その記憶は彼らにどのような影響を与えるのか。そして、そ れを描いた作品は、現実の読者にどのようなメッセージを伝え得るのか。論じていきたい。 


14:25–14:35 〈10 分休憩〉

14:35-14:45  〈写真撮影〉

14:45-14:55  〈自己紹介〉


14:55–15:35  就学前教育・保育の危機的現状

佐藤哲也(宮城教育大学) 

■ 学校法人森友学園への不透明な国有地払い下げ問題が取りあげられている。法人と行政との間の不可解な やり取りや政治家による口利きの有無もさることながら、同法人が経営する塚本幼稚園(大阪市淀川区)の教育方針や保育の実態が物議を醸している。君が代や愛国行進曲が斉唱され、鼓笛隊によって軍艦マーチが披露 される。五箇条の誓文と教育勅語が高らかと朗唱され、中韓蔑視のヘイトスピーチが飛び交う。こうした保育 に賛同する政治家や著名人言説からは、教育(education)と洗脳(indoctrination)を混同し、学校教育を 国民統制のためのプロジェクトとみなすロジックが透けて見える。 その一方で、平成 30 年には幼稚園教育要領が改訂される。その改訂案には看過することができない内容が 散見される。小学校以降の学校教育との連続性が考慮されて「ねらい」が「資質、能力を幼児の生活する姿から捉えたもの」と書き換えらた。「能力」が“できる”“わかる”達成目標と誤解されないか危惧される。特別な支援や配慮を必要とする幼児の育ちを「能力」と捉えることが妥当なのか、また5領域の中から抽出された 幼児期の終わりまでに育って欲しい「10 の力」が演繹型実践の論拠とならないか注意を要する。歌詞とメロディーが「幼児期にふさわしい」とは言い難い「国歌」がはじめて環境領域に登場した。「我が国の伝統」と いう枕詞が頻出することも気がかりである。「我が国の伝統」というフィクションが偏狭な愛国心教育と結び つくことが懸念されるからである。「解説書」や「指導書」で示されるべき記述が要領内に明記されている点 も、統制志向の強まりと見なすことができよう。 こうした現状とその問題点を整理した上で、「子どもの最善の利益」に準拠したポスト・モダンの就学前教 育の展望を考察したい。 


15:35 –16:35 

P・S・ファス『世界子ども学大事典』(原書房) の日本語版出版を終えて ─この七年間の取り組みを振り返る─

北本正章(青山学院大学) 

■ この研究会の発足(2009 年)とも深く関わりのある Paula S. Fass editor in chie f, Encyclopedia of Children and Childhood: In History and Society, 3 vols (Mac millan Reference, USA, 2004) の日本語 版『世界子ども学大事典』全 1 巻(原書房、2016 年 12 月)は、研究会会員の多くの皆さまのご協力のおかげで無事に出版することができました。出版に際しては、宣伝パンフレットに、児童文学者の神宮輝夫先生、 子ども文化論の野上暁先生、そして西洋美術史家の森洋子先生から立派な推薦文を寄稿していただきました。 出版を終えたばかりのこの機会に、(記憶が薄れないうちに)この日本語版の事典の作成過程で考えたこと、 調査したことなどを織り交ぜながら、ご協力いただいたメンバーの皆さまに感謝込めて、(1)この事典の読 みどころ、(2)味わいどころ、(3)特に注目すべき項目、(4)当初計画しながらも実現できなかった構想 企画と資料、(5)この事典の特徴、(6)「新しい子ども学」に示唆している点および課題と展望、(7)現時 点で寄せられている感想、などについて報告致します。 さらに、今回の事典出版の経験に基づいて、今後どのような研究活動が期待されるか、研究会メンバーの皆 さまの研究に資すると思われる若干の課題などを確認しておきたいと思います。 


16:35–16:45 〈諸連絡〉

16:45  〈閉会〉

世界子ども学研究会

世界子ども学研究会は、「世界各地の社会・歴史・文化の中の、子どもと青年」を研究対象とした研究会として、2009年にスタートしました。歴史学・教育学・保育学・発達社会学・(児童)文学・音楽学などの諸分野間での、グローバルな学術交流を行なっています。本研究会にご関心のある方は、以下のアドレスまでメールでご連絡ください。 office-children(アットマーク)freeml.com